第6回大会総評

■審査結果・総評

 

■決勝戦審査結果

決勝戦ジャッジ     (関西ディベート交流協会 審査委員長 岡野勝志氏)

 

まず肯定側立論にコメントします。肯定側の立論は構想的かつ概念的に聞こえました。具体的な話やエビデンスが物足りなかったのは否めないと思います。また、普通はプランの全体を先に紹介し、そのプランが現状の施策に対してどれだけの優位性・アドバンテージがあるかをまとめていきますが、この肯定側立論は、プラン1つ目に対してメリット、プラン2つ目に対してメリットという提示をしました。

こういう場合の否定側の反論としては、プランとメリット連動型という合わせ技で質問し反論していくのが適切なやり方になってきます。

次に反対尋問です。否定側は尋問において確認したことが尻切れトンボになり、後の議論につながっていませんでした。したがって、プラン1、プラン2、そして肯定側の哲学「防災を義務教育の教科」にして満たせるのかどうかという3点にほぼ争点が狭められてしまいました。技術面では、反対尋問はお互いに気持ちよく一問一答ができていましたし、スピーディーな展開で尋問上手でした。また答える方もなかなか良かったので見所がありました。しかし、形式的なやりとりで一問一答はできたけれども、どれだけの成果を尋問から拾えたかというとやや問題が残ります。まだまだこれから勉強しないといけないところかと思います。

争点の見所をいくつか講評します。義務教育の教科として、子ども達に防災の教育を何年かのスパンでやっていこうとする肯定側でしたが、哲学がやや大きかったですね。義務教育という具体的なプランにも関わらず、哲学が非常に遠い所にあるため、ここを否定側が攻めました。肯定側は直近的な、あるいは直接的な小さな哲学を定めた方が良かったかもしれません。

否定側は「高齢者はどうするのですか、大勢の人を救うのであれば子どもだけではダメでしょう」と反駁しました。これに対して、肯定側は否定側に「あなた方は高齢者を救うためにどんな施策をされるのですか?」と、逆に聞きただして、相手に立証させることも必要だったでしょう。

また、義務教育の議論で高齢者まで対象にしていいかどうかについては、反論する側の論題充当も問われます。つまり、否定側がマクロに防災をとらえようとしたのに対して、肯定側は義務教育における防災というミクロの話です。ミクロだけども、それをマクロ化して上手く誘導しようというのが否定側の作戦だったわけです。否定側には接合責任があります。否定側は肯定側がどういう内容であれ、哲学は哲学として議論し、この哲学をプラン3つが満たせるのかどうかについて議論していく必要があります。実は哲学はゴールではないのですが、ゴールと哲学が若干入り乱れてしまったというような議論になりました。

審査員の結論は、聴衆判定がすでに一票否定側に入っているのを含め、9対2をもちまして肯定側の勝利と判定します。

 

■各賞発表

■立論について                  (防災・社会貢献専門家審査員代表 小山 達也氏)

ディベート大会も第6回を迎えたということで、全国にこういう活動・文化が根付いてきましたね。特に今回は東北、東海、関東、南近畿といった、これから災害を受けるであろうところ、それから既に災害を受けて防災対策が進んだところから多くの参加をいただいています。そうした意味で、今回の論題がみなさんにとっては逆に難しい課題になってしまったのかなと、立論を見ている上で思いました。皆さんの所では、既に防災教育が義務教育の中に組み込まれ、なされているのではないかと思います。そうした経験から、「教科とすべき」といった観点からは少しぼやけた立論が多かったのではないかと思っています。そこで、今回は、丁寧にカリキュラムを組んでプログラムを作ったチームを選ばせていただきました。

ひとつだけ注意点を話させていただきます。否定側の方から「災害には地域性があるので、災害の種類・内容に関し、画一的な教育はすべきではない」とか「知識の定着が、行動にすぐ移るわけではない」、「そういうことをやるとPTSDになる子がでるのでやめるべきだ」という意見がございました。現在、現実に行われている全国的なボランティアの展開や、いつ何が起きてもおかしくない災害列島日本ということを考えると、一刀両断、ツッコミどころ満載の議論ですが、肯定側のみなさんは誰もそういうことを言わずに、優しく接しておられました。

皆さんには、これからの防災の現場で、ディベート大会で学んだ相手側の意向をよくよく見るということを活用して、被災者に優しく接してあげていただきたいと思います。

それでは立論賞を発表いたします。兵庫県立大学LANの皆様です。

 

■インパクトと共感性について                  (聴衆審査員代表 橘みちほ氏)

先ほど決勝戦の中で「参加したい人しか参加しない」という発言がありました。それには参加したくなるような話し方、行ってみたいなと思うような雰囲気づくりが必要です。ディベート大会では、言葉を尽くして、心を尽くして相手の気持ちを慮って戦うことで、そのようなことを身につける機会なのだなと実感しました。私は図書館に勤めているということもありまして、是非高校生の皆さんも大学生の皆さんも、図書館には一杯資料がありますので、「相手を納得させることができる言葉」をたくさん自分の中に引き出しとして持って、大会に臨んでいただけると、面白い論戦が出来るようになるのではないかなと思います。

オーディエンス特別賞を選ばせていただいた一番の理由は、普段から防災に特化してたくさん学んできている方達が、負けたとはいえ非常に素晴らしいものを持っておられました。私たちに一番届く言葉で、たくさんのことを教えてくれたということで選ばせていただきました。

兵庫県立舞子高校の環境防災科、RH11の皆さんを選びたいと思います。おめでとうございます。