決勝戦記録

MC900065499決勝戦記録

決勝戦記録                                                                                         

~論題「被災自治体は未来型都市構築を最優先すべきである」~

肯定側:チームみちのく   否定側:篠崎ゼミ team SUGA-NO

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○肯定側立論

肯定側の立論をはじめます。私たち肯定側は、論題「被災自治体は未来型都市構築を最優先すべきである」を肯定し、立証します。我が国では、これまで何度も災害による被害を受けており、その都度、災害対策を行ってきました。特に、過去の災害をもとにして造られた高い耐震基準の建物や防潮堤といった防災施設は、我が国の災害対策の象徴でもありました。しかし、技術の高い対策をしていても、災害による被害はたびたび発生しています。そのため、被災自治体では、災害によって受けた被害を教訓とし、将来再び災害が発生した際に被害を軽減できるよう、今後の災害対策について改めて考えた「まちづくり」を行うべきです。

 

ここで、用語の定義を行います。

「被災自治体」とは、災害によって被害を受けた市町村を指します。「未来型都市構築」とは、将来、災害が発生した際に、その被害を軽減することができるよう、まちづくりを行っていくことです。「最優先」とは、他の災害対策プランに、先だって実行されることを意味します。

そして、「住民」も「まち」を構成する要素であることから、肯定側は住民が主体となって災害対策の地域文化・風土を醸成することも、「まちづくり」のひとつであると考え、次のプランを提唱します。

「ハードよりもソフトを重視した、減災まちづくり」

本プランは、被災自治体が今後の災害対策を行う上で、建物や防潮堤の建設、集団移転といった、いわゆる「ハード」による対策よりも、自助や共助の考え方に基づいた「ソフト」の対策を行っていくことで、その地域における、災害文化を醸成することを目的として進めていきます。

具体的な内容としては、住民の交流センターを設け、場の提供をすること。そして、防災教育や語り継ぎなど、災害を意識する催しを積極的に推進、あるいは開催して、地域の災害文化を確立していくことを提案します。理由としては、まず必要となるのは住民による自治組織であり、自治組織ができれば、仮設コミュニティでの防犯や高齢者見守りなどができるようになります。さらに、今後の災害への対応や、復興まちづくりへの話し合いもできるため、住民が自主的に考え、行動できるような集まりができることが望ましいと考えます。次に、災害に強い地域の文化を醸成するためには、住民が考えた災害対応を表現し、実行する機会が必要です。防災教育や防災訓練、被災体験の語り継ぎなどを積極的に推進、あるいは自治体が開催します。こういった機会を設け、住民一人ひとりが災害と向き合うことで、災害に強い地域づくりの礎としていきます。

このような方策によって、ハードだけに頼らず、住民自身の自助と共助によって災害に対応できるような地域文化を創っていきます。

 

論点①防災施設・設備を建設するよりも優先されるべき理由

ハード面の対策である防災施設の建設も、災害対策には必要になります。東日本大震災でも、岩手県の一部の沿岸地域では津波の波高が抑えられるなど、一定の効果がありました。しかし、建設には多くの時間や予算、人員が必要となることや、景観を損なうなどの理由から、住民との合意形成が進まないという問題点があります。さらに、岩手県宮古市のように施設に対する過度の「安心感」が、避難を遅らせるということも指摘されています。このような問題点があることから、ハードだけに頼るのではなく、住民が自ら考え、居住地の決定や避難をすることができるよう、ソフトによる対策を優先すべきです。

 

論点②リスク回避よりも優先されるべき理由

災害後には、防災上の措置として、防災集団移転が行われた例があります。1993年の奥尻島での津波災害や、2004年の新潟中越沖地震での山古志村、そして東日本大震災です。これは、災害のリスクそのものから逃れることになります。しかし、移転先がなかなか見つからないことや、移転を望まない声も多いこと、移転先での生活やコミュニティ再建が難しいことが課題とされています。また、津波から逃れ高台に移転しても、今度は土砂災害の危険があるなど、災害の危険がなくなるわけではありません。リスクそのものを完全に消し去ることができないならば、災害と向き合い、自分の命や地域を守るという住民の意識を高めていくことが、被害を軽減するためには、優先されるべきです。

 

以上のように、ハード面の対策を優先するよりも、ソフト面での対策を優先することで、これまでの災害対策以上に被害を抑えることができると考えられます。そして最終的には、住民が主体となって、災害対策についての議論や、自治体への提案などを行い、災害文化の伝承や防災教育を通して、その地域の災害文化を根付かせていくことが、今後の災害対策では重要であり最優先されるべきです。

 

○否定側反対尋問

否定側:「減災まちづくり」でコミュニティが増えると仰っていましたが、これはハード面での強化は行わないということでよろしいですか?

肯定側:いえ、ハードを行わないという意味ではありません。

否定側:ではハード面の強化も行うということですか?

肯定側:ハードも必要だと思います。

否定側:わかりました。

 

否定側:災害学習をするところを取り入れると仰っていましたが、これは強制的に作るものですか?

肯定側:強制という意味はありません。

否定側:わかりました。

 

否定側:メリットをもう一度簡潔に教えてください。

肯定側:リスクそのものを完全に消し去ることはできないので、住民の皆さんが災害と向き合うことができるように、色々な知識などを根付かせていくという事が目的であり、メリットです。

否定側:わかりました。

 

否定側:コミュニティを広げる策として、被災自治体が行う事というのは具体的にどのようなことですか?

肯定側:住民同士が交流できるような場や機会を設けていくことが大事だと思います。

 

否定側:移転した際にコミュニティ形成が難しく新たなリスクが生まれると仰っていましたが、この新たなリスクとは具体的にどのようなものでしょうか。

肯定側:コミュニティに関しての新たなリスクは、たとえば孤独死や高齢者の死亡などが挙げられます。

否定側:交流センターなどが作られれば、孤独死などは無くなると言うことでよろしいですか?

肯定側:完全ではないですが、ある程度は軽減できると思っています。

否定側:ありがとうございます。

 

否定側:肯定側が最も優先したいのは、ハード面よりソフト面であり、コミュニティ形成を最優先するということでよろしいですか?

肯定側:コミュニティ形成というよりも、ハードよりもソフトを優先するという意味で最優先としています。

否定側:ありがとうございました。

 

○否定側立論

否定側立論を始めます。私たちは肯定側が主張された論題「被災自治体は未来型都市構築を最優先すべきである」を否定いたします。なぜなら、私たちは肯定側が提示したプラン「未来型都市」というのが、被災自治体にとって最優先すべきでないと考えるからです。肯定側の立論を確認します。

まず哲学として、今まで耐震や防潮堤などを作ってきたにもかかわらず、被害がたびたび発生している。よって今後必要なものはハード面での強化ではなくソフト面の強化であるとおっしゃられました。またそのハードよりもソフトを重視した減災まちづくりを行うとおっしゃられました。

それについて論点を二つ挙げられていました。一つ目、ソフトについて。交流センター、災害を伝える自治組織、まちづくりを住民に自主的に行わせる、防災教育などを自治体で行わせるということでした。

二つ目、災害リスクからそのまま逃れる、現状では被災自治体の集団移転などが上手くいっていない、リスクよりも最優先されるものがソフト面であるとおっしゃられたと思います。

まず論点1について確認したいと思います。まちづくりを住民が自主的に行うと言いましたが、しかしながら防災教育などは強制的には行わないと言いました。防災教育などは実際に皆が「防災教育をしたい」と思っているのでしょうか。皆はもともと高台などに移転希望しているのではないでしょうか。これは論点2にもつながってくるのですが、災害リスクよりもソフトが最優先されるとしましたが、実際に仙台市の東部地域においては、8割の住民が移転をしたいと考えています。それはソフトを最優先しているというよりも、その場から逃れたいという気持ちを最優先しているから、8割の人たちは高台に移転したいと考えているのではないでしょうか。

論点2については、人々は津波や震災から逃げたいと考えています。実際の問題として8割の人たちは高台に移転したいと考えています。なので、リスクが最優先されるべきと考えます。

論点1に戻りますが、ソフトの面に対して交流センターや災害を伝える組織を作り上げると言いましたが、これは実際に新しくすることなのでしょうか。今実際に被災自治体の仮設住宅においては、見回りなどのより強固なコミュニティが作られている状況があります。それによって孤独死が防止されているという状況もあります。このように、いま被災自治体で見回りなどを行っているのに、肯定側が提示した未来型都市のメリットはすでに行われているものであり、メリットになっていないと思います。

もう一度確認します。肯定側の立論に対して、耐震・防潮などは被害がたびたび起き上手くいかなかったということが挙げられました。よってハードよりもソフトと考えていますが、そのソフトの面について、そもそも今は仮設住宅などにおいて強固なコミュニティが形成され、すでに孤独死などを防ぐ状況になっているという事が挙げられます。また、論点2についてですが、被災者は東部の地域で8割の人たちは実際に高台に移転したいと考えています。これはコミュニティなどを最優先させる話では無く、災害リスク・震災から逃れたいという話であり、メリットは発生しないのではないでしょうか。

このように、被災自治体は未来型都市構築においてソフトを最優先に行うといいつつも、実際にはソフトよりも津波などから逃げたいというものが最優先であると考えます。

よって肯定側の示された論点1、2がメリットとして成り立たないと考えます。私たちは肯定側の提示されました「被災自治体は未来型都市構築を最優先すべきである」を否定いたします。

 

○肯定側反対尋問

肯定側:ハード面はもちろん大切です。ですが私たちはその中でもソフト面を重視していくというのはご理解いただけましたか?

否定側:はい、わかりました。しかしハード面、ソフト面どちらも同時に最優先として進行していくのか、それともソフト面を重視して、ソフト面の強化を行った後にハード面の強化を行うのか、という疑問がわきました。

肯定側:同時並行で、かつ、ソフト面をひとつ突出して最優先させるということでご理解いただけますか?

 

肯定側:では質問を変えます。否定側立論の中で、仙台の例を挙げて、8割方は高台の方に移転したいということをおっしゃっていました。では、残りの2割はどう考えているのでしょうか。エビデンスをお示しください。

否定側:これは証拠資料として挙げさせていただきました。アンケートとして8割の方が移転に同意していますが、2割の方は農業従事者や漁業関係者など・・・

肯定側:エビデンスがあるということでよろしいですね?

否定側:はい。

肯定側:では、その2割の方の中には、沿岸部に帰りたいという方ももちろん含まれるということでよろしいですか?

否定側:帰りたいと思っていますが、今の実情において、津波の起きた場所には住めないという施策をとっています。

肯定側:わかりました。

 

肯定側:否定側立論の中で、仮設住宅で見回りをしている人たちがいるとのことでしたが、これは全地域で行われていることでしょうか。

否定側:全地域かはわかりません。

肯定側:エビデンスは何かお持ちでしょうか。

否定側:東北学院大学の金菱先生の本において・・・

肯定側:あるということですね?

否定側:はい。

 

肯定側:東日本大震災の中で、防潮堤が壊れたという事実はご存知ですね?

否定側:はい。

肯定側:岩手県釜石市での、俗にいう釜石の奇跡ということをご存知でしょうか。

否定側:はい。

肯定側:その中で小学生がほかの住民を救ったということはご存知でしょうか。

否定側:小学生がほかの住民を救ったというのは、声掛けなどでということでしょうか。

肯定側:そうです。

否定側:はい。

 

肯定側:住民同士での関わり合いは必要だと思いますか?

否定側:はい。

 

○否定側総括

それでは、否定側総括を担当させていただきます。

まず、私たちは「被災自治体は未来型都市構築を最優先すべきである」という論題に対し、再び否定いたします。なぜなら、肯定側が提示した「ソフト面での強化」というものが、メリットにつながらないと考えるからです。実際に津波のリスクから完全に人の命を守ること、これは完全には無理だと考えます。しかし、ソフト面の強化を重要視して行ったところで、本当に防災・減災になるのでしょうか。

また、ハード面での強化も必要とはおっしゃいました。しかしハード面、ソフト面、どちらを重要視しているのか、これも不明確です。ソフト面、コミュニティの形成が、孤独死を防ぐことはできます。しかし、コミュニティの形成が強化されれば、の話です。未来型都市、交流センター、災害を伝えるというまちづくりをすることで、本当にコミュニティの形成が強化されるのでしょか。確かに、地域の人々の声掛けなどで津波の脅威から人々の避難誘導が迅速に行えるということは知られています。しかし、避難と言っても、避難経路、避難施設、それがあれば、の話です。被災自治体に、避難するための建物、そして避難経路があれば、人々のコミュニティによって避難することは可能です。

また、現在仮設住宅はとてもコミュニティが密接なものとなっています。実際に資料もあります。見守りなども強化され、孤独死なども減少しています。それなのに、未来型都市、これをわざわざ構築してコミュニティの強化を図るということは、本当に必要なことなのでしょうか。ハード面での強化、それによって人々の命を守ることが一番重要なことではないでしょうか。孤立死、そして津波からの被害から守るということは、まずは人の命を守るということに関係しています。人の命を守るには、まずは津波、震災などから人々を守るための街づくり、ハード面での強化を必要としているのではないでしょうか。

以上で否定側総括を終了します。ありがとうございました。

 

○肯定側総括

それでは、肯定側の総括をさせて頂きます。

まず、今回の肯定側と否定側の議論におきまして大きな争点となりましたのは、我々の提唱するソフトのプランとハードのプラン、一体どちらを優先するのかという議論。そして仮設でのコミュニティについて、本当にコミュニティを強化する必要があるのかということが挙げられました。

そのことについて、まずハードとソフトのどちらを重視するのかということですが、もちろん私たちのプランとしては、ハードも大事だと考えています。ということから、ハードをやらないというわけではありません。ただ、ハードの対策にはいろいろと問題があります。もちろん時間や予算、そういったものが掛かるということもありますし、住民との合意形成がなかなか進まないという議論も現在いま被災地では起きています。そして、実際に岩手県宮古市であったように、防潮堤があるから避難しなくても大丈夫だろう、そういった過度な安心感が生まれることが、被害を大きくしている原因でもあります。人の命を守るためにはハードを重視すべきだという意見を否定側からいただきましたが、もちろんハードの対策も必要なのですが、ハードだけの対策をするのではなく、ソフトの対策によって、住民が災害のリスクそのものを認識することこそがまずは必要なのではないかということを考え、私たちはソフトの対策を優先させていただきました。

そして住民が交流する意義についてですが、実際に阪神・淡路大震災では、まちづくりの参画、これがコミュニティ強化につながっている部分があります。もちろん災害対策以外にも住民の参画に繋がるといったメリットもあります。また否定側が挙げられましたように、今も行われている部分も確かにあります。ただ全地域知っていますかというこちらの尋問に対しまして、全地域は知らないということをおっしゃられました。今も行われているところもありますが、果たしてそれで十分なのでしょうか。もし今行われているもので十分だとするのであれば、今被災地で起こっている議論は一体何なのでしょうか。不十分だからこそ、今やるべきなのではないでしょうか。そういったところから、私たちはコミュニティの強化も必要だと考えています。

移転のことについても言及がありましたが、もちろん移転が必要ないところもあると思います。ただ私たちが申しましたように、災害そのもの、今回受けた被害から逃れたとしても、また今度新たなリスクと向き合うことになる可能性も否定できません。そのためたとえ移転したとしても、住民が災害と向き合い、これからの災害対策について考えることこそが、まずは重要なのではないでしょうか。

そして私たちはソフトの対策のひとつとして防災教育や伝承などを挙げてきましたが、これは住民全員でできるものだと考えています。ハードの対策であれば自治体や建設会社などの企業が担うことになりますが、ソフトの対策によって住民全員が新たな災害対策を考えることこそがまずは重要であり、ソフトの対策を行っていくことが優先されるべきではないでしょうか。

以上で肯定側の総括を終了します。ご清聴ありがとうございました。